学部長からのメッセージ
このページでは学部長から表明されたメッセージをまとめています。
なお、新型コロナ関連のメッセージはこちらにも記載しています。
2023年度理学部新入生の皆様へ 2023.04.01
福岡大学理学部の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
理学部長というのは、理学部の先生方(約100人います)、学生約1000人のとりまとめ役です。学生の皆さんにとっての私の役割は、皆さんが福岡大学で充実した学生生活を送れるように、教育、研究、そして学生生活で必要なことを調整することです。そんな、理学部の学部長である私から、皆さんに期待することを少しお話したいと思います。
理学部には4つの学科2つのインスティテュートがあります。応用数学科、社会数理情報インスティテュート、物理科学科、化学科、ナノサイエンスインスティテュート、地球圏科学科。この福岡大学理学部に、今年、入学された皆さんは、257名です。257名、一人一人に、心からお祝いの言葉を送ります。
皆さんは、高校を卒業し、昨日から福岡大学の一員、大学生となりました。大学生には、高校までと異なり、主体的に判断し行動することが求められます。
この点は、いろいろな方が述べられていますので、ここでは繰り返しません。「主体的に判断し、行動する」その中身について、皆さんと少し考えてみたいと思います。
よく「大学は社会に出る準備をするところ」と言われます。この意味付け、私は少し違うなと思うのです。私は学生には、「君たちは社会人だよ」と言います。だから「普通、労働時間と定められているだけ、、、、一日8時間勉強してください。」と言います。どういうことでしょうか?
あなたたちと同じ世代、年齢の方のうち、約半数は、すでに、いわゆる社会で働いています。そのおかげで、社会は回っています。そういう方たちがいるからこそ、社会は回っていて、あなたたちは大学で勉強していられるのです。それぞれが社会の中である意味、異なった役割を担い、それで社会は回っています。あなたたちもまた、何らかの社会的な役割を担っているのです。では、あなたたちの社会的な役割というのは何でしょうか。アルバイトをすること?いえいえ、、、、違います。
それは、「学ぶ」こと、そして「人として成長すること」です。大学で、理学部に入学した皆さんは、理学部で学ぶこと、理学部で学んだ人らしく成長することです。あなたたちが、将来、社会の中で、大学・理学部で学んだあなたたちだからこそできること、それができる、そんな力を身に着けることです。それが、あなたたちの仕事です。「学ぶこと」、「人として成長すること」、それがあなたたちが、今、「働くこと」と考えていただきたいと思います。
では、「学ぶこと」、「人として成長すること」とはどういうことでしょうか。8時間勉強したとしますね。一日は、あと16時間。8時間寝たとして、残り8時間。ぜひサークル活動、文化活動に勤しんで、文化的にも大きく成長してください。たくさんの仲間と交流して、成長して下さい。こちらは、別の場に譲ります。学部指導懇談会というのが、4月6日にありますので、そちらでじっくりと聞いてください。ここでは、理学部の学生として「学ぶ」ことの意味と価値、その可能性について、少しお話を続けたいと思います。
「学ぶ」と言っても、机にかじりついて試験問題を解けるようになることではありません。理学部での学びは、「研究」する力を身につけることを目的としています。「研究」とは何か?理学部の「理」という言葉、ここでは、「数学」も含みます。一文字で音読みでは、「ことわり」と読みます。「理」「ことわり」とは何か?言い換えれば「しくみ」、「自然・社会・人間の仕組み」でしょうか。理学部の役割は、私たちの身の回りで起きていることの仕組みを解き明かしていくこと、これが「研究」です。研究、物事の仕組みを解き明かすことができる人を育てること、これが「教育」です。「研究」をすること、自然の仕組みを解き明かすこと。その中で、研究をできる人を育てること、それが大学の理学部の役割です。使命です。
「研究」というと大それたことのように思うかもしれません。私は、社会で「働く力」を身に着けるために大学に来た、「研究するためではない」と考える方もいるかもしれません。「場違い?」と不安になるかもしれませんね。
安心してください。「研究する力」というのは、社会で働く力の根幹、基礎となる力です。「働く力」そのものです。その謎解きを少ししましょう。
ちょっと身の回りを見てください。ここへ来る途中の景色を思い出してください。桜がきれいですよね。春ですね。青空もきれいですよね。気持ちいいですね。それで満足? 満足しないでちょっと疑問を持ってみましょうか。小学生くらいに戻ってみましょうか。
「なんで桜は春に咲くの?」
「なんで冬は寒いの、春は暖かいの、夏は暑いの、、、、」
「なんで空は青いの?」
そんな疑問を持ったことはありませんか?答えられますか?今は、答えられるかどうかが問題ではありません。「研究」のスタートであり、一番大切なことは、当たり前と思えるようなことに「なぜ?」という疑問を持つことです。身の回りの自然、社会、人間に関して「なぜ?」を発すること、これがスタートです。
「なぜ?」を発し、その理由、原因、仕組みを解き明かしてゆくこと、それが研究です。解き明かしてゆくためには、道具が必要です。道具というのは、実験器具ではありません。実験器具も道具ですか、それ以上に大切なのは、様々な知識です。この知識自体が実は、自然の仕組みです。それが、数学であり、物理学であり、化学であり、生物学であり、地球科学なのです。高校までで学んだ数学や理科というのは、これまで、人々が研究をして解き明かしてきた自然の仕組み、社会の仕組み、人間の仕組みそのものなのです。
これまで、人類が解き明かしてきた、学問をまずしっかりと学ぶこと、これが、専門の学び、授業です。講義、演習、実験です。3年生までにしっかりと身に着けることが必要です。これは、勉強ですね。
ちょっと話はそれますが、「女王の教室」というテレビドラマ知っていますか?いろいろと物議を醸しだしたドラマですが、その中で主任公の鬼教師が小学校6年生の「なぜ勉強しなくてはいけないのですか?」という問いにこう答えました。「勉強はしなければならないものではありません。したいと思うものです。」どういうことか。社会のいろいろなことを解決してゆくのに、いろいろなことを知らなくて、できるのですか?というのが、「鬼教師」の答えです。私の答えでもあります。
これまでわかっている基礎的な知識、学問ですね。これを道具にして、皆さん自身の「なぜ?」を解き明かしてゆく、これが、卒業研究です。理学部では卒業研究は、必修です。皆さんが取り組まなければならない関門ですね。でも、これ、実に面白いんです。これまで、誰も説明できなかったことを説明できるようになる、新しい仕組みを見つけ出す。これほど楽しいことはありません。知的好奇心を満たす、ということです。ワクワクします。そういう局面に立ったことがある方たちが、皆さんに授業をしてくれる先生方です。「しなければならないもの」かもしれませんが、「したいと思うもの」、研究をしたいと思ってください。そのスタートは、「なぜ?」です。
さて、そういう経験、研究力は、応用力の基礎、基盤となります。
社会で起きている様々な問題については、試験問題のような決まりきった答えはありません。様々な対策の方法があり、その効果もバラバラです。新しい課題が次々に出てきます。これまでの方法がそれに適用できるわけでもありません。そういう画一的な正解のない課題に対応する能力は、研究力から生まれてきます。こういう点から、実は、理学部の卒業生というのは、専門に直結する仕事はもちろん様々なところで活躍しています。理学部らしさは社会的にも期待されています。
では、私たちが生きている社会の状況に目を移してみましょう。気候危機をはじめとする社会的危機、新型コロナ感染症、そしてロシアのウクライナ侵攻を発端とする世界的な戦争へ危機。不安ばかり掻き立てられます。先行きの見えない不透明な時代と言われます。
いろいろありますが、社会的な危機について皆さんもよく知っているSDGsに立ち返って見てみたいと思います。
気候変動は、科学技術の進歩、経済的な発展がもたらしたものです。現代社会の様々な矛盾の象徴的なものです。国際社会は、気候危機の打開、万人に等しい教育、ジェンダー平等の実現などの17の目標からなるSDGsを設定しました。人間社会が自らの発展の中でもたらした、あるいは、解決を放置してきた人類社会が持続するために必要な非常に切実な課題です。先進国、発展途上国の別なしに抱えている重大な課題です。社会構造の革新と国際的な協力のもとで解決しようとしています。
SDGsのうちのいくつかは、科学の発展がもたらした課題でもあります。人類は、科学の発展とどのように共存していくのかと問われているのです。理学を学ぶ皆さんが、将来、社会の様々な局面で、正確な自然認識と的確な対応方法を提示することを期待しています。
私が大学に入学したのは、44年前。マンガや小説の描く未来社会がそこまで来ている感じです。皆さんも、44年前の私と同じ20歳くらいです。大学生活は4年。大学を終えてからの方がはるかに長いですね。どんな世界が待ち受けているのでしょう。そんな未来を創っていくのはあなたたちです。
様々な課題に直面するでしょうね。その時、課題を本質から見つめなおし、解決の道を探っていける、そんな力を身につけてください。
理学部で何を学ぶのか?
理学は自然、社会、人間の仕組みを問う学問です。先行きが見えにくい不透明な時代だからこそ、基礎から、これまで人類が探り当ててきた自然、社会、人間の仕組みをよく学んでください。面白いですよ。その中で、まだわかっていないこと、当たり前に思われていることに、疑問を持ってください。それを解き明かしましょう。
課題は、目の前に立ちふさがる大問題でも、役に立つかどうかもわからない単なる興味でもいいのです。興味が第一です。興味を持った自然の仕組みを解明する道筋の中で、自然と人間との間で抱える課題を解くカギが見つかるかもしれない、解決の道しるべとなる何かが見つかるかもしれない、羅針盤が見つかるかもしれない。そういう経験をしてください。それが、理学を学ぶということです。
最後なりました。皆さんが、充実した学生生活を送られることを祈念して、私のお祝いの言葉とさせていただきます。
理学部への入学、おめでとうございます。
ロシアのウクライナ軍事侵攻の中止、両国の平和を求める声明 2022.3.22
ロシアの軍事力によるウクライナ侵攻の開始から一ヶ月が経とうとしています。ウクライナの民間人を含め、両国の数千もの命が失われています。女性、子供を中心に数百万人のウクライナの方が国外への避難を余儀なくされています。毎日の報道に深い悲しみを憶えます。
設立以来50余年、福岡大学理学部は自然・社会・人間の仕組みを解明することを通して人類の幸福に貢献せんと教育、研究に力を注いできました。今、ドローンによる攻撃、原子力発電所への攻撃、核兵器使用という脅しもされています。科学に支えられた軍事力が両国の人々を不幸に陥れていることに深い憂慮を憶えます。
私たちは、数千万の尊い命を失った痛苦の第2次世界大戦を教訓として、国際連合を中心に平和的に国際秩序を維持する努力を続けてきました。
今、ロシアが一刻も早くウクライナ侵攻を中止し、ウクライナとロシア両国の人々に平穏な日々が戻ることを望みます。そして、ロシアのウクライナ侵攻の中止を実現に向けて、すべての国、国際社会が平和的な外交努力に全力を挙げることを期待します。
2022年3月22日
福岡大学理学部長
林 政彦
参考
A Statement from the President of Fukuoka University (学長声明:2022年3月6日)
https://www.fukuoka-u.ac.jp/news/22/03/07180127.html