カリキュラム
令和元年度 理学研究科 化学専攻科目とシラバス
令和元年度 大学院理学研究科化学専攻科目
専修部門 | 授業科目 | 単位 | 担当者 | 主研究内容 |
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物質機能化学 | 物質機能化学講究 | 8 | 栗崎 敏 | 分子凝集系の合成と構造および機能解析 |
物質機能化学特別実験 | 10 | |||
構造物理化学 | 構造物理化学講究 | 8 | 勝本 之晶 仁部 芳則 吉田 亨次 |
物質の構造・機能の量子化学および複雑流体の物理化学 |
構造物理化学特別実験 | 10 | |||
有機生物化学 | 有機生物化学講究 | 8 | 松原 公紀 塩路 幸生 |
合成有機化学および合成高分子化学 |
有機生物化学特別実験 | 10 | |||
機能生物化学 | 機能生物化学講究 | 8 | 倉岡 功 小柴 琢己 福田 将虎 |
細胞・タンパク質・遺伝子の化学 |
機能生物化学特別実験 | 10 | |||
ナノ化学 | ナノ化学講究 | 8 | 川田 知 林田 修 |
ナノ構造を有する化合物の合成と構造・機能解析 |
学生は,主要科目のうちから1 専修部門を選定し,これをその学生の専修科目とする。
さらに,専修科目担当者のうちの1 人を主指導教員とし,専修科目及び専修科目以外の科目の選定並びに学位論文の作成,その他研究一般についてその指導を受けるものとする。
特修科目
物質機能化学特論Ⅰ | 物質機能化学特論Ⅱ | 物質機能化学特論Ⅲ | ナノ化学特論Ⅰ |
構造物理化学特論Ⅰ | 構造物理化学特論Ⅱ | 構造物理化学特論Ⅲ | |
有機生物化学特論Ⅰ | 有機生物化学特論Ⅱ | 有機生物化学特論Ⅲ | ナノ化学特論Ⅱ |
機能生物化学祷論Ⅰ | 機能生物化学特論Ⅱ | 機能生物化学特論Ⅲ | |
物質機能化学 特別講義Ⅰ・Ⅱ |
構造物理化学 特別講義Ⅰ・Ⅱ |
有機生物化学 特別講義Ⅰ・Ⅱ |
機能生物化学 特別講義Ⅰ・Ⅱ |
ナノ化学特別講義 |
シラバス
講義科目 | 単位 | 担当教員 | 講義概要 |
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物質機能化学特論Ⅱ | 2 | 山口敏男 | 地球表面のおよそ70%は水であり,自然界における物質移動や循環は溶媒である水が重要な役割を果 たしている。また,成人の体重のおよそ70%は水であり,生体系においてタンパク質が天文学的な数 の中から唯一天然の安定な構造を選択することができる過程において水が巧妙な役割を果たしてい る。一方,化学工業における物質の合成反応においても水や種々の溶媒が用いられている。このよう に自然界における複雑な現象や工業的な化学合成反応を理解して,さらに新規機能性物質の設計・合 成を深化・発展させるためには,溶媒や溶液の構造や性質を明らかにして,その機能発現のメカニズ ムを分子レベルで明らかにすることが重要である。物質機能化学特論Ⅱでは,溶媒である種々の液体 の構造と性質について学ぶ。また,それらの溶媒中における化学種の構造とダイナミクスを分子レベ ルで観測する手法として,X 線・中性子線を用いた回折法,X線吸収分光法,中性子非弾性散乱法を 取り上げ,それらの理論といくつかの応用例を学ぶ。また,核磁気共鳴法を用いた理論と応用につい ても学ぶ。これらの手法を用いた最近の応用例として,超臨界水やナノ細孔内に閉じ込めた液体(ナ ノ流体),タンパク質周りの水の構造とダイナミクスの研究について学ぶ。また,学んだ手法を用い た最近の研究論文を読んで紹介する。 |
物質機能化学特論Ⅲ | 2 | 安藤 功 | 物質機能化学特論Ⅲでは,金属錯体の機能について取り扱う。錯体は中心金属(無機化合物)と配位 子(主に有機化合物)から構成されている。錯体の機能は,それぞれの構成物の特性を利用して創り 出されたり,構成物の組み合わせにより新たな機能を創り出すことができる。さらに,錯体の挙動は 物理的な環境の変化(外的な刺激)や化学的環境(まわりの物質との相互作用)によって変化する。こ れらのことから錯体の新しい機能や優れた機能が生み出されてきている。まず,錯体の性質について 基礎的な事項を講義する。その後,総説をテキストとした輪講により機能発現の例を理解し,機能発 現機構を学ぶ。さらに,最新の文献を読み,様々な錯体の機能発現の原理を理解する。 |
構造物理化学特論I | 2 | 仁部 芳則 | 分子の電子遷移に基づく可視・紫外分光法は様々な分野で使われており,分子の状態を分析する非常 に高感度な手法である。この講義では分子と光の相互作用について基礎的な解釈法を身に付け,可 視・紫外吸収に現れる様々な振電バンドの解析から遷移の始状態及び終状態における分子構造の変化 を解析する手法を学ぶ。 最初に,量子化学の基礎的な内容を学び,実験的側面として分子分光の基礎となる光と分子の相互作 用について学ぶ。光による遷移の前後の波動関数がどのように表されるか知るために,電子状態及び 振動の波動関数がどのように表されるか学ぶ。次に多原子分子の基準振動について,基準座標がどの ような手続きで求められ,基準振動の波動関数と振動準位の関係について学ぶ。振動状態は電子状態 毎に異なることを学び,振電状態の波動関数を表す際のBorn-Oppenheimer 近似について学ぶ。電子 遷移に現れる振動構造を理解するためにFranck-Condon 原理を学び,許容遷移における電子スペクト ルの振動構造の解釈法及び解析法を学ぶ。さらに,禁制状態への電子遷移を理解するために,振電相 互作用について学ぶ。以上の結果から,光によって分子に電子遷移が引き起こされた場合,どのよう な振動がスペクトルに現れるのか学び,電子スペクトルに現れる振動バンドの構造から,電子遷移に よる分子構造の変化を類推する方法を習得する。 理論的側面として,分光実験の結果を解釈するための分子軌道計算について基礎的事項を概説し,構 造最適化,振動数計算等,計算によって得られる知見に関する講義を行い,計算結果の解釈法につい て述べる。 |
構造物理化学特論Ⅲ | 2 | 勝本 之晶 | 原子や分子のミクロな性質は量子力学で,その集合体であるマクロな物質の性質は熱力学で把握するこ とができる。これら二つの力学は学部で量子化学および物理化学で習ってきたが,それだけでは不十分 で,ミクロな性質がどのようにマクロな性質に結びつくかを知るには統計力学が必要となる。量子力学 から求められる原子分子のエネルギーを用い,統計力学を使って,その集合体である物質の熱力学的性 質を導く。本講義では,まず統計力学の考え方を説明し,具体的に,理想気体,熱輻射,固体の振動な どへの応用を考える。テキストとしては,Atkinsの“Physical Chemistry”を使い,英語で書かれたもの を読み取る力も養う。 |
有機生物化学特論I | 2 | 大熊健太郎 | 本特論は学部で学んだ有機反応を応用して種々の複素環化合物合成が可能であることを示す。カルボア ニオンを用いた炭素炭素結合反応を利用して多くの有機化合物は合成されるが,それのみでは天然に含 まれる官能基をもった有機化合物を得ることはできない。何らかの典型元素〔窒素,酸素,硫黄など〕 が必要である。したがって窒素,硫黄,酸素などを含んだ化合物の特性を知ることが必須となる。官能 基の特性を利用した反応が重要となってくる。これまでに研究室で蓄積してきた典型元素の合成の反応 を中心に多くの複素環化合物の合成法を講義する。あわせて天然物の幾つかを示し,その合成法を示し たい。 |
有機生物化学特論Ⅱ | 2 | 松原公紀 | 大学の授業における有機化学は,炭素,およびヘテロ原子(官能基)の電子的な相互作用の結果起 こる反応について重点的に行われている。しかしながら,この30 年ほどで,有機化学は無機化合 物,特に遷移金属との関わりによって大きな発展を遂げた。それははじめ生体内のモデル反応を目 指したものであったり,あるいは金属製の反応容器が触媒になっていたりと偶発的な場合もあった が,今日では,2001 年の野依良治,Noles,Sharpless らのノーベル賞受賞に見られるように,う まく設計した金属触媒を用いることで,望むものだけを高い収率で合成することのできる未来型の 有機合成反応の開発が有機合成化学における主流になっており,生体内での選択的な物質変換を, 部分的ではあるものの人工的に可能にするレベルに至っている。そのような遷移金属を中心として 考える有機化学は今日の有機化学者,生物有機化学者にとって非常に重要であるが,有機化学と無 機化学の境界領域でもあり,両方の知識が必要であるため,学部で受講することには無理がある。 従って,大学院において受講する必要があり,本受講内容を受講することは,有機化学,生物化学 の新たな側面を知識として得る意味で大変有意義なものになると考えられる。 |
有機生物化学特論Ⅲ | 2 | 塩路幸生 | ケミカルバイオロジー(化学生物学)は,化学者が提唱しはじめた化学と生命科学の融合による新しい 学際的研究分野である。また,ケミカルバイオロジーでは,分子生物学的手法に加え,有機化合物を 用いて生命科学研究を行うことから,治療薬や診断薬など有用な化合物開発に直結する産業上の重要 領域であるともいえる。逆をたどれば,現在実際に使われている医薬の作用機序を学べば,生命現象 を紐解く新しい解法を発見できるかもしれない。本科目では,まず,生体物質の構造や性質を復習する。 続いて最新の生体分析法について学ぶ。さらに受講者が現在使われている医薬品をひとつ選び,その 合成法,構造,物性,さらに作用機序を調べて発表する。すなわち,本科目をとおして生命現象に化 学者がどのように迫っているのか,有機化学者がこの研究分野にどのようにアプローチできるかを学 ぶ。本科目は講義と医薬品の紹介で構成されます。医薬品の紹介は15 分程度の発表と,5 分間程度の 討論で行います。講義のはじめに各自医薬品の紹介を行う順番を決めます。選ぶ医薬品は,調べたこ とが自らの研究にも役立つものが望ましい。 |
機能生物化学祷論I | 2 | 寺田成之 | 生命の基本は細胞である。親から子,子から孫へと受け継がれる遺伝情報が細胞とこみで渡されるの は,それを解釈するシステムが細胞以外にはないためである。物質やエネルギー代謝,遺伝情報に関 わるイベント,物質輸送,運動,生体防御など,生体内で起こる様々な現象を理解するには,細胞や タンパク質に関する知識が要求される。本講義では,①タンパク質化学,②生体膜の基本構造とはた らき,③ホルモンの作用機構,④細胞増殖因子による細胞内情報伝達のしくみ,⑤血液タンパク質の はたらきとして,抗体,補体,免疫学的手法,血液凝固と線溶などについての知識の習得を目指す。 |
機能生物化学特論Ⅱ | 2 | 山口武夫 | 生命現象の美しさ,不思議さ,神秘性を,以下に述べる項目について考えてみる。( 1 )発生の仕組 み ( 2 )細胞の構造と機能(細胞骨格タンパク質が細胞接着などに重要であることを学ぶ)( 3 )生命 活動のエネルギー源であるATP の生産(酸化的リン酸化と光リン酸化について熱力学的立場からも検 討する)( 4 )ATP の持つ化学エネルギーを力学エネルギーに変換する仕組み ( 5 )自己と非自己の 認識,つまり免疫の仕組みを学ぶ。特に,最近発展が著しい先天性免疫について詳しく学習する。 |
機能生物化学特論Ⅲ | 2 | 弟子丸正伸 | 生物における遺伝情報の流れは,広く「DNA → RNA →タンパク質」というセントラルドグマに従う が,実際にはDNA 上の情報が単純に伝達されるだけではなく,転写・翻訳の各段階の途中でさまざ まな修飾を受ける場合がある。また,一部のウイルスの生活環の中ではRNA 依存的なDNA 合成であ る「逆転写」がごく一般的に起こっており,生物の細胞においてもこれが伝播したと考えられる機構 (レトロトランスポジション)が存在する。本講義ではウイルスの遺伝子発現機構および複製機構を題 材に,一般的な遺伝子発現では見逃されがちな「転写後修飾」「翻訳後修飾」「逆転写」などの現象に ついて,ゼミ形式で学習する。一方,真核生物に感染する代表的なウイルスの中から毎回一つずつを 取り上げて学習する。各ウイルスに特有なウイルス粒子の構造,ゲノム構成,複製機構,発病機構, 抗ウイルス薬について予習内容をもとに発表し,上記を含めたさまざまな生体内の分子機構について 理解を深める。 |
ナノ化学特論Ⅰ | 2 | 川田 知 | 分子凝集系の一つである,金属錯体がナノサイズに集合した金属錯体集積体に関する物性と機能発現 について講義する。まず,金属錯体集積体の物性を理解するための基礎的な事項(構造,磁性,分光 学的性質等)を概説する。さらに,金属錯体集積体に関する最新のトピックスを紹介することで,金 属錯体集積体に関する理解を深める。 |
ナノ化学特論Ⅱ | 2 | 林田 修 | 近年の生命科学に関連する科学技術の進歩に伴って,生命現象を化学の視点から解明し,生命科学と 化学の境界未踏領域を探究するための有機生物化学による研究がますます重要になっている。例えば, レセプターや抗体などの優れた分子認識特性を模倣したバイオミメティック分子の研究はゲストデリ バリーシステムやケモセンサーなどの応用へと発展している。生体分子の構造と機能を手本として新 たなバイオ関連分子を創造する化学の構築と複雑で多様な生命現象を分子レベルで制御・解析するた めの化学的手法の開発なども進んでいる。そこで,本特論では,分子認識特性を持ち備えている大環 状のナノ分子などに着目し,その分子設計と合成および様々な機能性の賦与について概説する。さら に,有機生物化学に関する話題提供と討論を通して科学的な知識を高める。 |