研究紹介
化学科には様々な研究分野があり、多岐に渡った研究が行われています。以下に簡単な紹介をまとめました。
より詳しいテーマ等は各研究室個別ホームページをご覧ください。
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生体内の動きを「観る」ための新物質を創る
塩路 幸生 教授・岩下 秀文 助教
生命体を構成する細胞の中では、タンパク質や脂質などの分子が、相互に様々なシグナルをやり取りすることで体の機能を正常に保っています。この研究では、いくつかの仕掛けを施した小さな有機化合物を開発し、細胞内に送り込むことで、「シグナル物質と化学反応を起こし、光などの信号としてその働きを映像化する」ことを目的としています。この光信号を利用して、普通では何が起こっているか見ることが出来ない生体内の機能を観察することができます。
「環状ホスト」で、生命の化学を探求する
林田 修 教授・宮崎 隆聡 助教
生命体の中では、酵素が特定の基質分子だけを識別できる「基質特異性」が知られています。これを化学の言葉で「分子認識」と呼びます。この「分子認識」を理解できれば、基質分子の構造に合わせて設計された「ホスト」と呼ばれる分子を合成し、うまく適合する基質分子すなわち「ゲスト」だけをホストの中に取り込むことができます。生命体が持つ優れた分子認識能を人工の分子で再現しようという狙いです。このような新しい分子の化学は「バイオミメティック化学」と呼ばれ、生命現象を化学の視点から解明し探求しようとするものです。抗がん剤などの特定の「ゲスト」を捕捉し、送達・放出できる、ナノ空間をもった「環状ホスト」も開発しています。
分子触媒を、化学反応を、創り出す
松原 公紀 教授 ・ 古賀 裕二 助教
有機化学に無機化学で扱う金属元素が関わると、それまでは不可能だった化学反応が可能になります。これは、「分子触媒」とよばれる、金属原子を含む小さな分子の働きによるものです。わたしたちは、新しい分子触媒を次々と創り出すことで、これまでにない化学反応や新しい機能を持った化学物質を開発することが可能になると考え、研究を行っています。
たった一個の分子がセンサーになる
濱口 智彦 助教
通常、世の中の化合物は全て安定であると考えられます。しかし、あえて不安定な状態を意図的に作り出す事で、そのような化合物は環境の変化に応答し、様々な最適の状態を取る事が可能になります。この事を応用して、わたしたちは、光・熱・化学物質などといった外部からの刺激に応答して、構造や色など分子の性質が変化する金属錯体を合成し、そのふるまいについて研究しています。
金属錯体の新しい使い方。金属錯体集合体をつくる
石川 立太 准教授
私たちの身の回りにはたくさんの金属錯体が存在します。たとえば血液中にあるヘモグロビンの中心には鉄錯体が存在し、酸素分子を運搬しています。こうして金属錯体は、金属元素と金属に結合する分子の構造の違いによって、様々な機能を持ちます。一方、生体内ではタンパク質やDNAが様々な弱い結合の力(水素結合などの分子間力)を使って複雑な立体構造を形成し、それにより様々な生理的機能を発揮します。わたしたちは、金属錯体でもこのような分子間力を作るように設計すれば、金属錯体ならではの立体構造と全く新しい機能が現れるのではないかと考え、金属イオンと有機物がナノサイズに集合した、新しい機能をもつ金属錯体集合体を合成し、その機能を明らかにしています。
DNAの傷はどうやって治されるか?
倉岡 功 教授・竹立 新人 助教
私たち生物が有するゲノムDNAは、生物が生きるために必要な遺伝情報を維持しています。物質としてのDNAは、放射線、紫外線、化学物質などの外的要因、また細胞の代謝過程で発生する活性酸素などの内的要因により絶えず損傷を受けています。この損傷は、DNA損傷と言って、細胞においては突然変異を引き起こしたり、「がん」を誘発したりします。しかし興味深いことに生物はその多種多様なDNA損傷から、自らを守るためにDNA修復という仕組みを持っていると考えられています。私たちは、身の周りの化学物質がどのようなDNA損傷を作り、どのように修復されるのか?を解析しています。
自ら遺伝情報を書き換えるRNA編集機構の意味は?
福田 将虎 准教授・田嶋 竣介 助教
私たち生物は、細胞内でたくさんの種類のタンパク質を作り、それらが様々な働きをすることで生命活動を営んでいます。作られるタンパク質の情報は、遺伝情報としてDNAに記されていますが、実際は、DNAから写し取られたRNA分子の情報を使ってタンパク質は作られています。しかし、DNA情報はいつも忠実にタンパク質に伝わるのではなく、場合によってDNAの情報をRNAの段階で書き換える「RNA編集機構」が機能しています。私たちは、「何故、RNAの情報を書き換える必要があるのか?」という未解明の謎に興味を持ち、RNA編集の仕組みと生理的な意味を解明するための研究を行っています。
物質の状態変化はなぜ起こる?
渡辺 啓介 助教
物質の状態は分子の構造や性質とどのように関係するのだろうか?また、その状態が変化する時には分子はどのような働きをするだろうか?わたしたちは、上記の疑問を解き明かすことをめざして、原子・分子のミクロな世界からそれらの集合体であるマクロな世界の様々な性質を明らかにする研究を行っています。たとえば、水を冷却すると氷になり、また、液晶をディスプレーに使うと様々な形や色が出せます。これらは、熱や電場によって、より低いエネルギー状態が実現されることで起こります。このようなミクロからマクロな性質を解き明かす方法を使って、液体、液晶、固体での存在状態やそれらの間の状態変化の不思議を解き明かそうとしています。
「つながる事」だけでなく「つながり方」が大切
勝本 之晶 教授 ・ 真田 雄介 助教
高分子は、つかみどころのない物質です。固体になっても規則正しく分子が配列して結晶になるのは一部だけ、残りはグニャグニャと曲がりくねっています。このようなものを理解することは大変ですが、「つかみどころのなさ」こそが高分子材料特有の柔らかさと機能を生み出すのです。わたしたちは、高分子を構成する分子(単量体)のつながり方が高分子の性質や機能をどう変えるか、ということを研究しています。例えば左図のように、別種の単量体(●と○)をつなげるときのつながり方で溶媒への溶け方が大きく異なります。このような高分子を合成したり、その原因を調べたりしています。
誰も知らない水素結合の秘密を解く
仁部 芳則 准教授 ・ 山田 勇治 助教
水素結合は、水の沸点が他の物質に比べて異常に高かったり、生物の分野においてもタンパク質の立体構造やDNAの2重らせん構造にとって必須の、私たちにとって大切な力です。この研究では、「少ない水分子が集まっている真空状態」という特殊な環境、そして強いレーザーの光を利用して、「水素結合ができたら、近くにいる分子の性質はどんな風に変化するのか」という非常にコアでマニアックな現象を観察しています。
量子ビームで生命と水の関わりを知る
吉田 亨次 准教授・ 永井 哲郎 助教
私たちの体重の60%は水が占めています。水は生物が生きていくうえで不可欠な物質で、もし水が存在しなければ生命は誕生していません。このようにもっとも身近な物質が水であるにもかかわらず、水ほど奇妙な物質もありません。例えば、ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの穴に閉じ込められた水やタンパク質など生体分子の表面の水は、いくら温度を下げても氷にならないなど、コップの中とはとても違った振る舞いをします。私たちは、X線や中性子といった量子ビームを用いて、このような不思議な水の運動や水分子の並び方を観測しています。水の奇妙な性質の原因は何か、生命にとって水がなぜ不可欠なのか、を分子のレベルで解明したいと考えています。
化学の力で歴史を紐解く
栗崎 敏 准教授 ・ 市川 慎太郎 助教
土器や鉄製品などの歴史資料の組成や構造といった化学的な情報は、文字の無い時代や書物が残っていない時代のものを取り扱う際に、非常に有用な指標となります。例えば、土器や鉄製品の原料は、地質が地域ごとに異なるので、組成や構造を正確に分析できれば、資料の起源を推定することができます。わたしたちは、化学的な分析方法の確立と資料の起源推定の指標となる成分の決定を行っています。
未開拓の元素を活用した分子創成を目指して
長洞 記嘉 准教授
生物や身の回りの物質の多くは、炭素、水素、酸素、リンなどの元素から構成されています。しかし、周期表にはまだまだ多くの元素が存在しており、それらの活用法や特性はまだ明らかになっていません。そこで、未開拓の元素を活用した合成や構造・性質の解明を研究しています。まだ知らない性質が眠っている未知の領域です。最近では16族元素の硫黄、セレン、テルルを含む新しい分子の合成に成功しました。世の中の生活様式を変えるような新たな物質が発見されるかもしれません。
科学を好きになってもらえるような授業づくりの研究
松岡 雅忠 准教授
このグループには、中学校や高等学校の理科(化学)教員あるいは科学の啓発活動に関心ある学生が多く所属しています。生徒の理解が進むような実験教材を開発したり、科学を好きになってもらえるような授業づくりの研究をしています。「なぜ、このような変化が起きるのか」を自分の言葉でいきいきと語れるような人材を育てています。自分たちが開発した実験教材を使って授業したり、それが教科書や資料集などに掲載されたときの喜びは格別です。